2016/05/09

第68回 愛し野塾 フレッシュフルーツと心血管系疾患の予防


フレッシュフルーツを摂取して、脳卒中と心筋梗塞予防

フルーツを摂取することが、心血管病の発症に予防効果があることは、これまで多くの疫学研究によって示されてきました。フルーツには、カリウム、ファイバー、抗酸化物質が豊富に含まれる一方で、塩分と脂肪分が少なく、カロリーも比較的低いことが、心血管病予防に結びつくと考えられています。

しかし、「フルーツ」と一概にいっても、フレッシュなものがいいのか、ドライフルーツ、冷凍フルーツ、缶詰、ジュースなど加工されたものでも予防効果があるのか、これまでの研究方法では、フルーツの定義はあいまいで、両者の違いについて明確に検討されてきませんでした。また、フルーツ摂取と脳出血の関係についても不明な点が多く残っています。欧米では、脳出血のかたが少なく、研究の妥当性・信頼性を十分に満たす解析が難しいのがその理由でした。

さて、今回、中国を対象国として、この「フルーツと脳卒中・心筋梗塞予防」の問題に取り組んだ研究が報告されましたので、解説をしてみようと思います。

内容は、47日号のNEJM(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)に報告されました。対象となった国、中国の食文化の特徴として、日常的に摂取するフルーツは、ほとんどが「フレッシュフルーツ」で、その大半が、「リンゴ」と「みかん」であるということでした。また、中国人のフルーツ消費量は極めて少ないことから、フルーツ摂食による予防効果が現れやすいと推測されること、一方で野菜の摂取量はおしなべて多く、得られた結果が、野菜の消費量の差の影響を受けにくいこと、脳出血罹患率が、欧米に比較して高く、研究目的が達成可能と判断されたことが、本研究の重要なポイントとして挙げられます。

Du, H., Li, L., Bennett, D., Guo, Y., Key, T. J., Bian, Z., ... & Chen, J. (2016). Fresh Fruit Consumption and Major Cardiovascular Disease in China. New England Journal of Medicine, 374(14), 1332-1343.

研究対象期間は、2004年から2008年、試験登録された対象者は、30-79歳の51万人のかたでした。中国の10カ所のエリアを選定し、心血管病の既往がない、約45万人(平均年齢50.5歳)(58.8%女性)(42.5 都市部在住)について解析されました。約7.5年の経過中、5,173人が冠動脈疾患、14,579人が虚血性脳血管障害、3,523人が脳出血を発症しました。死亡データは、死亡診断書によって確認され、病名等は、病院の電子カルテの記録をもとにデータ取得されました。

さて、解析によって、登録対象者のうち、18%が、毎日フレッシュフルーツを摂取している、ことがわかりました。フレッシュフルーツを摂取するかたは、摂取しないかたと比較して、1)都会在住の女性 2)比較的若年層 3)高い教育歴 4)収入が多い 5)少ない喫煙者数 6)少ないアルコール摂取量 7)多い乳製品及び肉の消費量、 といった傾向を認めました。フレッシュフルーツの摂取量と、野菜の消費量 及び運動量とのあいだに関連性は認めませんでした。試験登録時と登録後数ヶ月のフレッシュフルーツの消費量を再度分析し、スピアマン試験を用いて関係を検討したところ、相関係数0.55と相関を認め、期間をおいて調査しても、フレッシュフルーツの消費量に統計的変化を認めず、本試験の妥当性が証明されました。

試験参加者の平均BMIは、23.5、最高血圧は128.8mmHgでした。まったくフレッシュフルーツを摂らないグループ(6.3%がこれに該当)と比較して、毎日フレッシュフルーツを摂るグループでは、最高血圧で、4mmHg低下、血糖は9mgdl、有意に低いことがわかりました。この結果は、フレッシュフルーツの消費量に依存し、消費量の増加に伴って、血圧も血糖も低下していることがわかりました。

様々な交絡因子で補正した後、フレッシュフルーツの消費量が死亡リスクに与える影響を試算すると、心血管病による死亡リスクが、40%低下しており、冠動脈疾患の発症率は、34%低下、虚血性脳疾患の発症率は、25%低下、脳出血発症率は、36%低下していることが判明しました。

すなわち、フレッシュフルーツの消費量と、心血管病の発症率の間に、有意な負の相関関係を認め、フレッシュフルーツ消費量が増えれば、心血管病の発症リスクは、それぞれ冠動脈疾患、虚血性脳血管障害、脳出血のいずれにおいても、低下することがわかりました。また、試験登録に選定された地域である、全10カ所で、同じ傾向を認めました。登録当初に得られた基本データの違いにより、サブグループ解析でも同じ結論が得られました。得られた結果は、「血圧、教育レベル、血糖、性差、喫煙の有無」に影響されませんでした。「フレッシュフルーツ摂取が心血管障害による死亡と因果関係がある」と仮定し、「フレッシュフルーツ摂取が心血管死に寄与する割合」を算定してみると、<16>と判明しました。この計算結果からすると、フレッシュフルーツを毎日、中国人全員が摂れば、一年あたりの心血管死は56万人も予防可能であると推算されました。ここで注意しなくてはならないのは、本研究で補正に使われた因子以外の交絡因子の存在を否定しきれず、必ずしもこの推算が信頼性の高いものではないのでは?といった疑問が残る点です。

これより少し前の論文(Wang, X., Ouyang, Y., Liu, J., Zhu, M., Zhao, G., Bao, W., & Hu, F. B. (2014). Fruit and vegetable consumption and mortality from all causes, cardiovascular disease, and cancer: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies.)で、6本の研究論文のメタ解析を施行し、68万人を対象とした場合、「80グラムのフルーツ消費ごとに、わずか5%の心血管死リスク低下しかない」とされ、フルーツ消費の心血管病予防効果は高いわけではない、という結果がでていました。今回の研究では、「100グラムのフルーツを毎日摂取すると、約3割も心血管病死を減らせる。」との結論でしたから2つの研究報告にはかなりの相違があります。

本研究の「フルーツの消費が、心血管病予防に有意に有効である」という結果について考察すると、まず「フレッシュフルーツに的を絞った点」が大きく評価されています。先行研究では、「フルーツ摂取量」には、フレッシュフルーツのみならず、ドライフルーツ等も相当量含まれていました。中国人は、フルーツと言えば、フレッシュフルーツしかまず食しません。また、中国人はとりわけフルーツ消費量が少ない国民であることも摂取の有無で大きな差がでた理由と示唆されています。消費量が少ないと、心血管病発症リスクが大きく上がり、フルーツを食した場合に得られる効果がより大きく認められる可能性が大きいと考えられます。また、今回の研究では、心血管病の既往症があるひとだけではなく、降圧剤を服用しているひとをすべて研究対象者から除いたことから、治療に伴うバイアスが低く抑えられたことも明確な結果に結びついていると示唆されています。

残念なことに本研究では、1)摂取しているフレッシュフルーツの種類を特定されていないこと、2)フレッシュフルーツ以外のフルーツ摂取について調査をしていないこと 3)野菜の摂取量と心血管死との関係を明らかにしていないことが、弱点として指摘されています。しかし、中国では、フレッシュフルーツ摂取は、ほぼ、りんごとみかんであること、フレッシュフルーツ以外のフルーツを摂取する食習慣がほとんどないこと、中国人の野菜消費量は、ほぼ偏りなく多いことが知られており、指摘された問題点は、本研究の結論を左右するとは、思えません。

ご紹介した中国の研究は、なんといっても、果物を食事の中心の一つとする地中海食の「心血管病の予防効果が30%上昇」と、あい通ずるものがあり、個人的には、得られた結果は、高い正当性を有するもの、という印象を持ちます。

季節もよくなって参りました。是非とも「毎日」採りたてのフレッシュフルーツを意識して摂ってゆきたい、と考えますが、皆様いかがお考えでしょうか。